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ピュアな生活者目線が生み出した、業界の常識を覆したウォーターサーバー

2018年度GOOD DESIGN AWARD (グッドデザイン賞)受賞

ウォーターサーバー大手、アクアクララ株式会社の依頼によりセイタロウデザインがデザインを手掛けた「AQUA FAB(アクアファブ)」。ホワイトキューブをモチーフに、「水受けを無くす」という業界の常識を覆すデザイン変革を起こし、2018年度の「GOOD DESIGN AWARD (グッドデザイン賞)」を受賞しました。

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このウォーターサーバーは、アクアクララのラインナップの中でも新規契約の70%以上を占めるなど、ユーザーの支持も集め続けています。ですが、新しいデザインを取り入れるためには、コストや製造工程などいくつものハードルを越えなければならなかったと言います。

ハードルを乗り越えるために必要だったのは、生活者の目線に寄り添った「普通の感覚」をひとつずつ丁寧にすり合わせていくこと。それが革新的なデザインに繋がったと言います。プロダクトデザインを担当した、セイタロウデザイン代表・山崎晴太郎氏(@seiy)にお話を聞きました。

(構成:都田ミツコ/編集:くいしん

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セイタロウデザイン代表取締役、アートディレクター 、デザイナー
山崎 晴太郎
株式会社セイタロウデザイン代表。横浜出身。立教大学卒。京都芸術大学大学院芸術修士。2008年、株式会社セイタロウデザイン設立。企業経営に併走するデザイン戦略設計やデザインコンサルティングを中心にしたブランディング、プロモーション設計を中心に、グラフィック、WEB・空間・プロダクトと多様なチャネルのアートディレクションを手がける。各デザインコンペ審査委員や省庁有識者委員を歴任。 FMヨコハマ84.7「文化百貨店(毎週日曜2430-2500)」メインパーソナリティ。株式会社JMC取締兼CDO。NPO ARTS WORKS理事。東京2020組織委員会、スポーツプレゼンテーション・クリエイティブアドバイザー。

「晴太郎さんが満足するプロダクトを」と

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── どういった経緯でアクアファブが誕生したのでしょうか?

2017年にアクアクララさんからご依頼いただきました。最もベーシックなウォーターサーバーのラインをリニューアルしたいというお話でした。僕の実績を見込んでくださったそうです。

最初に、ご要望のひとつとして「デザイン賞を獲りたい」ということと、「晴太郎さんが満足するものをつくりたい」というオーダーがありました。僕自身がデザイナーとして納得して世の中に出せるもの、というのが与件として入っていたのは初めてだったので、結構しびれましたね。

── それはすごいオーダーですね。どのような意図でそういうご要望をいただいたのでしょうか。

2017年後頃から、受賞歴などで僕の業界内での知名度が少しずつ上がってきたこともあり、任せてみようと考えてくださるクライアントが増えてきた時期だと思います。

僕としてはオーダーを聞いて「妥協せず満足したものを出す」ことを決めました。

ほとんどのプロダクトでは、製造の要件やコストの視点で妥協が必要なことがよくあるんです。そこを妥協せずにどうアッセンブリ(組み立て)していくかという点で、すごく踏ん張りましたね。

人とウォーターサーバーの関係を再構築していく

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── まずはどうやって発想していったのですか?

僕はデザインに入る前に、思想から作っていくことを意識しています。

まず、日本の住居は広くないのでウォーターサーバーを置く場所がないですよね。壁沿いにしか設置できるところはありません。また、「水受け」を設置しなければいけなかったりと、デザイン的にいくつも制約がありました。

これらの課題を踏まえた上で、プロジェクト全体として「日本の住環境における、人とウォーターサーバーの当たり前の関係を再構築していく」というコンセプトを明示しました。

── 人とウォーターサーバーの関係とは、具体的にはどんなことなのですか?

生活の中にウォーターサーバーがあるということが、今はまだ当たり前のレベルになっていないと思ったんです。

そこでウォーターサーバーの他に、限られた人だけが持っていた製品が、生活の中に浸透してきた例としては何があるだろうと考えたときに空気清浄機や加湿器だと思いました。

加湿器や空気清浄機も機能的な面が重視されてきたプロダクトでしたが、いつからかデザイン性の高いインテリアプロダクトにどんどん置き換わっていきました。ウォーターサーバーで、それと同じ流れを作ることができればいいんじゃないかと思ったんです。

── 生活の中で当たり前にある存在になるためには、機能や価格だけではなく、日本の住宅に溶け込むようなデザイン性が重要なんですね。

日本の住宅に馴染む色彩や置き方を探っていく中で「柱を作る」という方向性が見えてきました。家の中には必ず柱がありますが「部屋の中に柱が何本ある」と覚えている人はあまりいません。つまり意識から消えているんです。

柱と同じように、水も生活を支えてはいるけれども意識されないような存在になってほしいと思いました。柱のように空間に鎮座することが正解なのかもしれないと考え始めました。

コストを上げてでもこだわった「ボトルカバー」

── 「妥協しないプロジェクト」というお話がありましたが、どんな点にこだわったのですか?

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ひとつは水ボトルです。それまでアクアクララのウォーターサーバーはすべてボトルが露出していたのですが、アクアファブではカバーで覆いました。

ボトルが見えていると水の残量がわかるというメリットもあるのですが、僕はデザインの思想として絶対に隠したいと思ったんです。それでボトルをカバーで覆う提案をしたのですが、コスト的に「カバーはオプションにしたい」というのがクライアントの意向でした。

── カバーを付けるとその分コストが上がるということですね。

しかし僕は「絶対にデフォルトでカバーを付けなければダメだ」と押し通すことにしました。予算的に調整が難しいのなら「その価値をユーザーに伝えて価格を上げましょう」と提案をして、最終的にカバーを付ける形になりました。

── 価格の見直しに至ったのはすごいですね。なぜそこまでカバーを付けることにこだわったのですか?

今回のプロダクトは、ウォーターサーバーをリビングに置くことを想定をしていました。でも来客があったときに、たとえば2リットルのペットボトルを机の上に置きっ放しにしておくのは少しだらしない印象がしますよね。だけどウォーターサーバーは、水ボトルがずっと露わになっているわけです。「これはおかしいから絶対に変えなければいけない」と思いました。

── たしかにそうですが、「水の残量が分かる」という点はどう解決したのですか?

「残量を見る」ことと、「お客様が来ているからペットボトルをしまっておくこと」、どちらが生活空間の中で重要でしょうか? 2リットルのお茶の残量なんてそんなに見たくないと思います(笑)。

それよりもお客様にだらしない印象を与えないことの方が大切です。そういう「普通の感覚」をシンプルに説明しながらひとつずつ説得していきました。最終的には、カバーの一部から水の残量が確認できるようにはなっています。

業界の当たり前を覆した「水受け」のない製品

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── もうひとつの特徴である「水受け」を無くすというアイデアはどのような着想から生まれたのですか?

最初にクライアントから、水受けの上に高さがないと哺乳瓶や鍋が入らないというお話がありました。しかし僕は、水受けを設けることはデザイン上の制約がかなり大きいと思ったんです。水受けによる制約を覆すのが、既存デザインリニューアルのキードライバーのひとつになると考えました。

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── それまで当たり前だったものを無くすのは大変ですよね。どうやってクライアントを説得したのですか?

水を扱う製品はポットや急須などたくさんありますが、水受けがあるのはウォーターサーバーだけです。そもそも水がこぼれることを前提にしていることがおかしい。水受けがなくても「水を出し終わるまで待とうよ」と思いますよね(笑)。

「生活に溶け込むデザインをしていくためにも、水受けは必要ありません」と説得しました。それに水受けがないほうが、「一滴の水を大切にする」という企業姿勢にもつながります。

その結果、水受けの無いフラットなデザインにして、必要に応じてトレーを引き出して物を置ける設計になりました。

── 業界として水受けを無くしたというのは衝撃が大きかったのではないですか?

そうでしたね。業界の前例や常識を、外からやって来た人間が「そんなルールいらないよね」と変えてしまったパターンだと思います。

ビールサーバーから着想を得た、テンションの上がる注ぎ口

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── アクアファブは、コックの形もスタイリッシュで操作性が高いですね。

ビールサーバーのデザインから着想を得ました。コックの形をオリジナルで作るのはコスト的に困難だったので、既存のフォーセット(蛇口)にカバーを連結させることで実現しています。

僕が液体を注ぐときにテンションが上がるのがビールサーバーだったので「この気持ちよさを届けよう」と思ったんです。行為としては同じでも、コックの形が違うだけで体験の質がまったく異なりますから。

── 既存のものより高級感がありますね。

デザイン面としてはもうひとつ、水受けをなくすことで注ぎ口の位置を自由に決められるようになり、これまでより高くすることができました。今までは水受けを確保するために注ぎ口の位置が低くて、使うときに腰を曲げなければならず使いにくかったんです。

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── 使うときの体勢という意味でもメリットがあるんですね。

ただ、水受けが必要な理由のひとつにチャイルドロックがあったんです。ウォーターサーバーは通常、子供が勝手に熱湯を出せないようにするために、ロック解除に2アクションくらいの操作が必要になるよう設計してあります。その操作をする間、コップを水受けに置いておきたいという需要がありました。

しかしその課題も、アクアファブは「ひねりながら押して引く」というアクションでお湯を出せるようにすることで解決しました。大人は片手でできますが、子供にはできないよう設計して、それで水受けを無くす案を通すことができました。

ピュアに生活するからこそ見えてくるデザイン視点

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── 晴太郎さんは以前からプロダクトデザインは得意だったのですか?

今回が4回目くらいです。最初に手がけたのはソーラー街灯。次が歩行補助器で、あとは屋外で使えるポータブルの手術灯、それから歯科医師用CTもデザインしました。アクアクララさんの後には、EV(電気自動車)向け充電スタンドのプロダクトデザインもしています。

基本的に出自はプロダクトデザイナーではないですし、すべて初めての領域のプロダクトとして取り組んでいるので、得意かと言われるとそれは分からないですね(笑)。

── アクアファブのように、業界の常識に捉われずデザイン改革ができたのはなぜだと思いますか?

業界の常識にない、と言われるようなアイディアを通すときには、僕は自分の体感から説得をすることが多いです。

「なぜウォーターサーバーだけ水受けがあるの?」「お客様が来るときにペットボトル出しっ放しにする?」と、日常生活の自分の身体性を信じている部分が強いと思います。

僕はマーケティングなどの数字をあまり信用していません。質問の仕方でいくらでも操作できますから。デザインを突き抜けられるのは己の体感しかないと確信しています。

── 晴太郎さんがアイディアを思いつくのは、どんなときなんですか?

水受けの話やボトルにカバーを付けることは、恐らく誰でも一度は考えたことがあるのではないでしょうか。でも「こういうものだから」と受け流してしまっているのだと思います。

でも実際にアクアファブを選ばれる方が非常に増えていると聞いて、「みんなもそう感じていたんだな」と思いました。「こうだったらいいのに」という瞬間を見逃さず、ピュアに生活することが大切だと思います。

僕はクリエイティブとは、ドラえもんの「もしもボックス」だと思っていて「もしウォーターサーバーに水受けがなかったら」というのを毎回やっているだけなんです(笑)。そのトリガーになるのは自らの体験だけなのではないでしょうか。

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セイタロウデザインは、アートディレクターの山崎晴太郎を中心に、ブランディングを軸としたCI・広告・映像・WEBサイト、プロダクトや建築とあらゆるチャネルを横断し、“線のデザイン”を提供するアート&ブランディングブティックです。