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自分の心が動くものが作れないと、その先の人には届かない

2020年夏。文房具業界に、ユニークな会社が誕生しました。

コーラス株式会社(以下、CHORUS)は、文具メーカー4社(プラス株式会社ステーショナリーカンパニー、日本ノート株式会社、セーラー万年筆株式会社、オキナ株式会社)の協力で設立された会社です。

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それぞれのメーカーの資源や技術をかけ合わせることで新しい価値を生み出し、社会の進歩に貢献することを目的に生まれたメーカー・プラットフォームとなっています。

CHORUSの立ち上げに伴い、セイタロウデザインがロゴや名刺、キービジュアルなどのVI(ビジュアル・アイデンティティ)、コーポレートサイト 、新オフィスのサインや壁面グラフィックを手掛けました。

その中でも壁面グラフィックは、学生スタッフを含む20数名により、丸2日間かけて完成。手書きにしか出せない温かみのある仕上がりとなり、好評を得ています。

このプロジェクトの軌跡を、デザイナーの小林誠太氏に聞きました。

(構成:都田ミツコ/編集:くいしん

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チーフデザイナー
小林 誠太 / Seita KOBAYASHI 
90年生まれ。長野県出身。身長189cm。実家はれんこん農家。東京デザイナー学院グラフィックデザイン学科卒業。いくつかのデザイン事務所を経て、2016年セイタロウデザイン入社、その後、日本デザインセンター色部デザイン研究所を経て、2020年に再びセイタロウデザイン入社。VI、サイン計画、広告、パッケージ、カタログ、ブランドブック、美術展やイベントの宣伝美術などを主に手がける。クライアントワーク以外にも、代表の山﨑とのユニットでグラフィックアートワークの制作活動など、グラフィックデザインの領域を軸に視覚表現の探究を勢力的に行っている。

文具メーカー4社が集った新会社

── 文具メーカーが合同で立ち上げた新会社、とてもおもしろい成り立ちですね。

文具はもちろんですが、それ以外にもフェイスシールドや手指のアルコール消毒液など、社会の動向に合わせて積極的に新規商品の開発を行うような、挑戦的で創造性にあふれた会社です。

現在は4社ですが、今後さらに参画企業が増えていくそうです。オフィスのフリーアドレス化など、働き方としても自由さや柔軟性が感じられる会社です。

── VIを手掛けることになったきっかけは?

CHORUSの社長の今泉さんが、新会社のロゴやキービジュアルを任せられるデザイナーを探されていたそうです。

偶然にも、代表の山崎(晴太郎)の大学院の先生が今泉社長と同級生で、グラフィックだけでなく、プロダクトや建築、アートなど多様な活動領域をもっていることから興味をもっていただき、お声掛けいただいたようです。

まずロゴを作ることになったため、ロゴデザインを得意としている僕が担当をすることになりました。実は、僕は一度セイタロウデザインから他社に転職したのですが、出戻りで再入社しているんです。ちょうどそのタイミングでの仕事だったので印象深いですね。

── 具体的には、何のデザインを担当したのでしょう?

ロゴだけではなく、オフィスのサインや壁面グラフィックとキービジュアルを担当しました。コーポレートサイトも弊社で作っています。

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先進性と文房具らしさを筆勢に込めたロゴ

──新会社のロゴやキービジュアルは、どうやって提案したのですか?

まずロゴの提案は、ヒアリング結果からキーワードを抽出していきました。

キーワードは、先進性、文房具のアナログ感、進化や成長、あとは「CHORUS」、つまり合唱のような一体感で、色々な人が力を合わせて良いものを作って社会に響かせていくというストーリーを落とし込みたいと思いました。会社のビジョンやワークスタイルを明確にした形です。

最初は、A案からD案まで4つのロゴを提案しました。

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──A案は早くも完成形とほぼ同じですね! 提案をする際に気を遣ったところはありますか?

ロゴを決める上で判断しやすいように、ノートやペンなどにツール展開したときのイメージを織り交ぜてプレゼンしています。

その中から「Cの筆勢」を生かしたパターンがいいと言っていただいたので、文字のディテールを詰めて研ぎ澄ませていきました。

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CHORUSの理念には「廃棄ゼロを目指す」という環境への配慮もあるんです。冒頭の「c」が「e」のようにも見えるので、CHORUSの社長さんは「エコロジーのeにも見えるね」とおっしゃっていました。デザイナーが意図しない発見があるのも、デザインのおもしろいところですね。

また、カラーリングはグリーンが良いという意向がありました。グリーンには、環境配慮の観点に加えて植物が伸びていくような成長や進歩のイメージがありCHORUSのコンセプトにも合っています。

すべて手書き!4社の文房具を取り入れたキービジュアル

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──キービジュアルはどうやって作っていったのでしょうか?

机に、文房具のイメージを連想させる断片的なアイデアソースを広げて、その中で組み合わせを社長さんと弊社で一緒に探りながら、方向性を導き出していきました。その段階でイメージがほぼ決まったので、あとはそれを完成に着地させていきました。

イメージの例を挙げると、鉛筆で描かれた模様などの抽象的なパターンや、紙を切ったり貼ったりしたような図工的なアナログ表現のイメージなどです。文具を手にしたとき、どんな人も最初は落書きすると思うんです。そんなプリミティブな創作意欲から生まれるアクションや多様性を含ませたいと思いました。

──それが集約されたのが完成形なんですね。

キービジュアルの「Progress with Society」という言葉はCHORUSの理念である「社会と共に進歩する」を英語にしたものです。英語にすることで、コミュニケーションの最初の入り口として、言葉の意味よりも先に絵的なイメージとしての力強さや熱意のような、人の心を動かすために必要な感情や意志の部分が伝わる形にしたかったんです。

4社の得意分野である文具、鉛筆や万年筆、修正液や消しゴムを使って、一筆一筆手書きで作りました。文房具を使ったときに生まれるアクションをすべて、メッセージの中に集約しつつ、アナログ感にこだわりたかったんです。よく見ると、手で消したような質感が入っているのがわかると思います。

誰が見ても分かるような細かくて面倒くさそうな作業をすることで、人を圧倒する熱量が集約できていると思います。

──キービジュアルが完成したときのクライアントの反応はどうでしたか?

手書きで作ったものを大きめのポスターサイズでお見せしたんです。ウワーッと歓声が上がって、とても喜んでいただきました。物作りに対する熱意が伝わるキービジュアルになったと思います。

会社のフィロソフィーを感じられるオフィスの入り口とは?

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──このアイディアが元になって壁面グラフィックが展開されていったんですね。

ロゴができた頃に、新オフィスの壁面もデザインをお願いしたいというお話しをいただきました。

弊社はグラフィックや、プロダクト、映像、空間デザインなどチャネルが広いので、オフィスの内装を手掛けることもよくあるんです。新オフィスの空間もキービジュアルの1つと考えてブランドイメージを全体で一貫させて作っていきました。

──まず、廊下のデザインから驚かされます。どうやって制作したのですか?

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エレベーターを降りて最初に見える廊下に「CHORUS」の文字が往復で重なっている手書きのデザインを施しています。CHORUSのブランド訴求がオフィスに入る手前からスタートしています。

オフィスで働いている人たちが目にしたときに気分が上がったり、会社のフィロソフィーが体感できるものにしたいと思いました。

また、文字は読めないくらいがおもしろいと思いました。見た人たち同士で「何が書いてあるんですか?」「これどうなってるんですか?」とコミュニケーションが生まれるといいですよね。来客があるたびに素通りされずにリアクションが起こるようなグラフィックを目指しました。

オフィスに向かうにつれて、グラフィックがコーポレートカラーのグリーンになっていくよう、導線にもブランドイメージを集約しています。

──お手洗いのピクトグラムもオリジナルですね。

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新しいものを作ろうとしている会社なので、ピクトグラムにもオリジナリティを出せればと思いました。細部まで一貫してデザインすることで、企業のものづくりに対する姿勢が相対的に感じ取れると思います。ピクトグラムも、CHORUSのロゴの筆勢を受けたデザインにしています。

オフィス中の壁面をシャーペンのみで装飾!?

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──オフィス内の壁面グラフィックは、どうやって作ったのですか?

オフィス壁面の幾何学グラフィックは、「CHORUS」という文字を、分解して作っています。文字として読ませないで、オフィスの壁紙として風景の一部にしてしまおうと思いました。

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前提として、壁に絵画を飾ってもノイズにならないグラフィックにしてほしいという要望がありました。そういう意味でも、モノトーンのグラフィックは絵と組み合わさることで相乗効果的に良い景色をつくる役割をもたせることができたと思います。

──廊下を含め、実際にデザインを手作業で壁に施工されたんですよね。大変だったのでは?

まず時間があまりありませんでした。一週間でアイデア出しと準備をして、オフィスに人がいない土日の2日間で施工しなければなりませんでした。

空間を把握するために100分の1の縮尺でオフィスの模型を作って、どこにどういうグラフィックがあるといいかを検証して準備を進めました。

ある程度、グラフィックの配置が決まったところで、実際に施工するための準備をしていきました。レタリングといって、紙を鉛筆でシャシャシャっと塗りつぶして、それを裏からなぞると下の紙にその線が転写されるという要領で、実際壁に転写していく方法を採用しました。

──転写するためにトレーシングペーパー(転写するための薄手の紙)を使ったのですか?

膨大な作業量だったので、高いトレーシングペーパーはあきらめて、薄さがちょうどよく、安価な普通のA3コピー用紙を使いました。それを会社のプリンターで出力して、原寸でつなぎ合わせたものを、壁に当てて転写をし、そのガイド線を元に手書きで線を1本1本塗り詰めていきました。

──すごく手間がかかる地道な作業ですね。何人くらいで作業したのでしょう?

うちのスタッフだけではとても無理なので、山崎が講師をしているデザイン学校の学生さん20人ほどに手を貸してもらいました。デザインの学校なので器用な子がいるし、慣れている人がやらないと集中力が続かないんです。実際、学生さんたちでも途中で心が折れそうになる人もいるほど大変な作業でした。全員の力があって完成した奇跡の案件でした(笑)。

──壁に描くときは、何を使って書いたのですか?

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定着の良さと大人数の表現を一定のクオリティーでディレクションできることを考慮してシャーペンだけを使いました。ちょっと子どものいたずら書きのような雰囲気もありますね。

筆圧によって濃さが変わったり、人によってタッチやピッチが全然違うので、それが逆におもしろいテクスチャーになりました。予測を超えた良さにつながりましたね。

熱い思いに対して、自分の心がまず動くものを作る

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──完成したときはかなり達成感があったのでは!?

学生さんたちは、記念に壁の前で集合写真を撮っていましたね(笑)。後日、学校の授業でも取り上げていただいたそうです。CHORUSの社長さんにも喜んでいただき、オフィスデザインを手掛けられたCHORUS参画会社PLUSのインテリアデザイナーさんにも、コロナでなかなかオフィスに出社できない状況ですが「是非、早くこのオフィスで働いてほしい」と仰っていただきました。

──プロジェクトを振り返っていかがですか?

私たちが子どもの頃から身近に感じていた文房具というものの身体性や、温度感、自由度や、楽しさを伝えたかったので、ここまで一貫して展開できてよかったです。クライアントも含めてすごくいいチームだったのだと思います。根底には、みんなが持っている文房具の元体験が共通項としていた気がしました。クライアントの熱い思いに答えられたという実感があります。

文房具という創造的な製品を扱う会社なので、そんな思いがひとりでも多くの社員さんに届くといいなと思います。

──クリエイティブに熱量を込めることについて、小林さんはどう捉えていますか?

自分の心が動くものが作れないと、その先の人にもたぶん届かないし響くことはないんじゃないでしょうか。今回はそれが実感できる案件だったと思います。苦労がないと得られない達成感もありますから(笑)。「物作りしててよかったな」と心底思えました。デザイナーとしても、身が引き締まるというか、背筋が伸びるようなプロジェクトでしたね。

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